トマソンとは建築物の一部であり、まちなかにまるで芸術品のように存在する無用の長物。そんなトマソンについて村本建設さまと対談させていただいた。建築の専門家の方からはどのようなお話が聞けるのだろうか。

Seel部員
それでは早速始めさせていただきます。よろしくお願いします。
【写真①】こちらのトマソンは、建築設計の方から見て、なぜこのようになってしまったのか分かりますか?

田中
写真だけで判断するのは難しいですね。2階から大きなものを出し入れしないといけなかったのかもしれませんね。
たとえば、マンションで入り口から入らない大きな家具を搬入する際、クレーンで吊るしてバルコニーから入れることがありますよね。

Seel部員
このようなトマソンというのは、建物のデザインなどにも関わってくるのではないでしょうか? そのあたりはどのように思われますか?

田寺
それが必要で設計したものなのか、こだわりで設計したものなのかによって変わってくる気がします。遊び心みたいなものでつけたのかもしれません。

Seel部員
なるほど、トマソンというのは定義が曖昧なものなんですね。判断する側によると言いますか……。

田寺
「無駄が建築」と言う人もいるので、それを芸術と見ている人もいるかと思います。

Seel部員
なるほど、ありがとうございます。
次はこちらのトマソンになります。【写真②】私には安全面、ビジュアル面から不思議な印象を受けたのですが、建築設計の方の目にはどう映りますか?

田寺
もしかしたら1階と上階の使い方や借主が違っていたのかもしれませんね。もともとは階段がついていてその先に玄関があったのが、今は全部同じ入居者が使うようになり、必要がなくなったのかもしれません

Seel部員
こういった階段は建築に関わる方でもあまり見かけないのでしょうか?

田寺
施工途中でも危ないところは造らないのが鉄則なので、見かけません。
これだったら人が転落してしまうので(笑)

Seel部員
取り残さずに撤去するものなんですね。

田寺
そう、だからこの場合、重機を使っての撤去作業ができないから封鎖だけしている状況なのかもしれません。

Seel部員
最後のトマソンはこちらになります。一見危なそうに見えるトマソンですが、安全面は大丈夫なのでしょうか。【写真③】

田寺
あ~、設計者がちょっとふざけてやりたそうな感じはありますね。扉つけるぐらいだから(笑)

田中
周りの外壁は白色なのに、扉がついている面だけ茶色っぽい感じなので、こういうデザインなのかもしれないですね。

Seel部員
このようなトマソン風のデザインをされることはあるのですか?

田寺
私たちの仕事上ではないですね。

田中
用途にもよりますね。法律上の問題もありますし。

Seel部員
施主の意向だとしても設置するのに法律の制御があるのですね。
専門的な見地からいろいろ伺えたので勉強になりましたし、とても面白かったです。ありがとうございました。

ここからは建築のプロの視点から、トマソンという一種のカルチャーについて感じることや、建設についてのこだわりをお聞きしました。

Q.ひそかにトマソン好きの界隈があることに対して、建築業界の方たちはどう思われますか?

田寺
まずそういった界隈があるということを知らなかったので、面白いなと思いますね。岐阜の養老天命反転地という、広大な敷地に斜めの建物があったり、迷路のようになっていたりと、半分アスレチックのような建築群があるのを思い出しました。作者は荒川修作という方ですが、そういった作品を通して自分たちの当たり前を見直そうというようなことを考える建築家もいらっしゃいます。

Q.トマソンというのは建築物でありながら、ある意味アートとして扱われていますが、それについてはどう思われますか?

田寺
先ほども言ったように、建築の当たり前を見直すという意味で無茶苦茶なものを建ててそれをアートにする。見た人に考えさせるようなコンセプトで建築を考える方はいらっしゃいますね。そんななかで、そういう意図が込められているかどうかすらわからない無用の長物をトマソンと呼んで愛していこうみたいな考え方は、私はすごくいいなあと思います。

Q.本日はトマソンについて対談させていただきありがとうございました。ご感想がありましたらお聞きしたいです。

田寺
不思議なものを見せていただき、推理ゲームをしているようですごく楽しかったです(笑)

Q.最後に村本建設さまの建築に対するこだわりをお聞かせください。

田寺
私たちが一番やりがいや喜びを感じるのは、自分が建てたものを使ってくれる方を実際に見たときです。それに対してトマソンは真逆の発想だったので今回はとても勉強になりました。

田中
お客様に引き渡して5年後、10年後もその建物がずっと使われ続けているのが魅力なのかなと思います。

Seel部員
本日は貴重なお話をありがとうございました。