建設業と聞くとどんなことを思い浮かべるだろうか。建設業の方々は、私たちの暮らしに欠かせない建造物を作ってくれているが、その作業内容を詳しく知る人はあまり多くはないだろう。今回は、そんな建設業の中でも補強工事にスポットライトを当てた。私たちが日常で意識することは多くないが、町を守るためには欠かせない補強工事について、村本建設にお話を伺った。
村本建設は平成31年2月から、東村山浄水場の沈殿池の耐震補強工事を行っている。長辺方向に130m、短辺方向に90 mと巨大な沈殿池の補強工事である。東村山浄水場は東京都の4大浄水場の一つであり、全体の処理能力日量の18.4%を担う。また、震災時の拠点施設としても重要な役割を有しているのも特徴である。補強工事では、主に4つの工事方法を用いている。一つ目は、鉄筋コンクリート増し打ち補強工だ。その名の通り、コンクリートを増やすことで構造物の耐久性を上げるのが目的で、既設の構造物の壁や底版(註1)をコンクリートで分厚くする工事だ。二つ目は、鉄筋補強工。この工事では、意外なことに壁に穴をあける。壁に開けた穴に鉄筋を差し込み、周りを定着材で固める。すると壁の耐久性はぐんと上がるそうだ。三つめは鋼板補強工。これも壁の耐久性を高めるための工事で、壁に鉄板を張り付けていくものだ。最後に継手(つぎて)補強工だ。コンクリート構造物には継ぎ目がある。地震が起きると、その部分がずれて水が漏れ出してしまい、沈殿池としては致命的なのだという。そこで、コンクリートの継ぎ目にゴムの板を貼り、水の漏洩を防いでいる。この4種類の工事方法を駆使して、東村山浄水場の再生が行われている。
補強工事において一番難しい作業は、品質の高いコンクリートを作ることだという。コンクリートは補強工事において基礎であり、これをおろそかにしてしまうと補強の効果は薄くなる。これはスポーツや勉強にも通ずることで、「基礎は簡単ではない。」ということを再認識させられた。
新しく構造物を造る工事とはどんな違いがあり、また補強工事ならではの難しさはどんなところにあるのだろうか。「耐震補強工事は、新設工事と違ってもともと稼働している施設の中で工事をすることが多いので、調整が大変ですね。沈殿池では、水を全て排出し補強工事を行い、その後水を入れて調整し、問題が見つかれば再度水を抜いて工事をするという流れなので、そういう面では、スケジュールの調整が大変ですね。また、実際に工事する構造物が、経年劣化などのために設計図とは異なる構造になっていることもあります。補強工事の設計図も用意されていますが、既設の構造物が設計図通りになっていなかったら、補強工事も想定していたようにはいかないじゃないですか。こういう面は、新設工事とは違う難しさだなと思います。」と監理技術者の北澤さんは話す。
現在、建設業界にはイノベーションが起こっている。ICT(Information and Communication Technology)が導入されつつあるのだ。「人を多く集めなくても生産性をぐっと上げられるように、ICTの導入に取り組んでいます。いろいろな作業がシステム化されることで、作業効率が上がり時間も短縮できるようになっていますね。たとえば、クレーンやブルドーザーなどの重機を使って山の斜面を掘削する時、今までは掘る目印を出すために自分たちの手で測量していました。しかしICTのおかげで、重機の両面に自動測量の結果が出るようになり、作業スピードが格段に上がっています。現在、建設業界は人手不足に悩まされています。このイノベーションは非常に大きなものをもたらしてくれたと感じています。」耐震補強工事の数は、2011年の東日本大震災が発生して以来、全国的に増加しているという。私たちが安全に暮らすために、耐震補強工事は欠かせないものだ。私たちの安全は、私たちの知らないところで建設業界の方々に守られている。地震大国である日本にとって、これからも構造物の耐震性は重要な問題となってくるだろう。建設業界は「縁の下の力持ち」として、これからも私たちの暮らしを支えてくれるのである。
(註1)コンクリート構造物の下部にある部材の総称。