建設業において、「対話」は重要なのだろうか。建設業というと、施工の技術や素材の選定などに目が向けられがちかもしれない。だが実際には、それらの過程において、現場と本社・支店間のコミュニケーションや連携などといった「対話」は必要不可欠である。1908年に奈良県で創業した村本建設は、『心と技術で明日を築く』というスローガンを大切にしながら、この刻一刻と変わっていく世の中において、ものづくりを通してそうした人と人との信頼関係を大切にしている。今回、私たちの暮らしの土台をつくる村本建設が、その裏でどのようなコミュニケーションを交わしているのか、またその中でどのような工夫をしているのかということについてお話を伺った。

入社10年目の五十嵐さんは、マンションの新築工事で施工管理業務を行なっている。施工管理とは、「工程・安全・品質・原価・環境」と大きく五つに分かれた項目ごとに管理を行う仕事である。具体的には、予定通りに工事を進めるために、建物が図面通りに建てられているか、職人さんが現場で安全に作業しているかといったことを、日々管理しているのだ。そんな五十嵐さんは、マンションを建設するにあたって、現場での積極的な対話を重要視されている。「現場にはさまざまな業種の職人さんが何百人、何千人もいらっしゃいます。一人ひとりの技術力が集結して、建物を完成させているのです。皆が同じ方向を向き、『お客様に喜ばれる建物を完成させる』という一つの目標に向かって進めていかなければ、決して良いものはできません。そうした個々の力を、その目標に向かって私たちが取りまとめないといけないと思っております。建物を建てるうえでは小さなミスも許されません。そのためには社員同士、また職人さんたちとの綿密な打ち合わせが必要となってきます。」建物をつくるうえで、職人さんは図面を見ながら作業を行なっているが、図面だけではわかりづらいところや、実際に作業をしてみると施工しづらい箇所に直面することがある。そのようなときに、五十嵐さんは直接現場を訪れ、職人さんと直接対話することによって、問題解決をするよう心がけているという。

また村本建設では、年齢・立場をこえて、お互い率直な意見を出し合えるような雰囲気づくりを心がけている。「作業のときの打ち合わせ以外にも、休憩時間など、たわいもない会話を日々行うように意識していますね。」と五十嵐さんは言う。円滑なコミュニケーションをとるうえでは、日常的に信頼関係を築くことが重要である。そうした社内や現場の和気あいあいとした雰囲気もあってか、技術職に就く社員さんの中には、文系学部出身の人もいる。早稲田大学の文系学部を卒業後、昨年村本建設に入社した河津さん。文系学部出身でありながら技術職を目指されたのには、どのような背景があるのだろうか。「学生の頃から、将来働いていくうえで、何か形に残るものをつくる仕事に携わりたいなという思いが強くありました。また、父がゼネコン勤務で、今の私と同じように施工管理の技術士として働いておりましたので、どんな仕事をしているのかイメージしやすかったということも、私が技術者を目指すようになったきっかけの一つです。」と河津さんは言う。実際に入社してからは、デスクワークと体を動かす仕事、その両方をバランスよく行うことで、日々充実感のある生活を送ることができているという。河津さんは、職人さんとの対話を通じて必要な技術を身につけている。「わからないことがあったら、積極的に相談していく姿勢が大事だなと思いますね。」現在マンションの現場に配属されている河津さんは、鉄筋・コンクリートに関する知識を増やしたり、躯体の流れについても勉強したりしている。「これからは図面を積極的に見て、内装関係の仕事にも携わっていきたいです。」と意気込む。

社内や現場でのコミュニケーションはもちろんのこと、実際にマンションを建設する工程では、多方面との対話が必要になる。工事に着手するにあたって、まずはお客様と定例会議を行い、作業の方法、外装のタイルや内装の壁紙といった仕上げものに関する打ち合わせを行う。その後、お客様との定例会議で取り決めた内容を、協力会社に共有する。発注ごとにそのつど工事の方法やルールが異なるため、確認事項を協力会社と打ち合わせる工程が必要となる。また、マンションを建設するうえでは、近隣住民との対話も欠かせない。時期によっては、工事の音が大きくなってしまうこともあるからだ。そうした場合には、事前に近隣住民の方にあいさつをしたり、説明会を開催したりしている。「近隣の方々にできるかぎり迷惑をおかけしないように、どういった建物をつくるのか、作業時間は何時から何時までなのかなどを説明させていただいたうえで、建設作業を進めるようにしています。そうした形での対話を意識しています。」工事を効率よく進めることはもちろん、村本建設では、近隣住民の理解を得たうえで、さまざまな人の立場に寄り添った丁寧な作業を心がけている。

五十嵐さんは今後の展望について、「自分が一人前の現場代理人として現場を統括し、より安全で品質の高い建物をつくれるように、日々精進していきたいです。それと同時に若手社員の育成にも力を入れたいと考えています。若手社員も年々増えてきています。彼らの知識量や技術力が向上することによって、会社自体の成長にも繋がるのではないかと考えています。」と語る。
村本建設は、発注者や協力会社、現場の職人さんたち、さらには近隣住民との豊かなコミュニケーションを重視している。今回取材を受けてくださったお二人から、そうした私たちの目には見えないさまざまな「対話」の在り方を垣間見ることができた。卓越した技術力はもちろんのこと、村本建設は人と人との信頼関係を大切にしながら、今後も私たちの暮らしを支えてくれるのだ。