私たちが日々暮らすまち、そこには見えない支えがある。たとえば、道路、水道や配電網などである。いわゆるインフラストラクチャーと呼ばれるそれらの基盤は、私たちの生活になくてはならない。しかし、それらの存在を日頃から意識的に捉え、支えられているという感覚を持つことはほとんどないだろう。
村本建設は平成27年12月から南浦和で下水道工事を行っている。この工事の目的は、地下に一時的に雨水を貯めておく貯留管をつくることで、雨による浸水被害を防ぐことだ。貯留管の全長はおよそ2キロで、3年から4年の期間をかけて施工している。地下にトンネルを掘る工事の方法は多くあるが、南浦和の現場ではシールド工法という方法を採用している。この方法は、貯留管が通る部分の地上道路を封鎖し、複数箇所から掘り起こしていくのではなく、地上の一箇所に地下への穴を掘り、その後は地下で掘り進めていくというものだ。そうすることで、住民の生活に負担をかけることがなく下水道をつくり上げることが可能になる。
「この工事で作業する場所は地下15メートル以上の場所なので、もちろんGPSも届きません。なので、全て手測量でやらなくてはならないのが苦労です。でも、全部地下でできるし地上への振動もないので、住民さんに優しい工事ができているんじゃないかな、そうだと嬉しいなと思いますね。」と現場監督の髙野さん。
実際に見たほうがわかりやすいと、現場を案内していただいた。現場は昼夜に分れ5〜10人の少人数で作業が行われる。シールドマシンという土を掘る機械を利用し、1メートル進むごとに鉄の枠を組むという工程を繰り返す。ヘルメットと軍手を着用し、鉄でできた階段を降りていく。降りた先には、内径2メートルのトンネルが約2キロメートルほど続いており、足元には線路が引かれている。地上からクレーンで運ばれて来た材料を、その線路を通る電車に移し替えて運ぶのだ。トンネルに沿って設置された管から風が一定量送られているため、息苦しさは全く感じなかった。とはいえ現場は地下15メートル、空調設備が万全なわけではない。熱中症対策として、地上の休憩所には10円で飲み物が買える自動販売機や塩分補給の飴が用意されていた。
南浦和の現場の入口には、工事の内容を紹介するアニメ映像が流れるモニターがある。外壁も木で作られた塀に囲まれており、工事現場とは思えない親しみやすさを感じる外装が特徴的だ。このように実際に現場に訪れると印象が変わるという考えから、現場見学に小学生を呼んだり、個人的に希望があった場合など、多くの住人を受け入れている。他にも、こどもでもわかりやすく工事の内容が書かれたパンフレットを製作したり、地域のこどもに向けてハロウィンやクリスマスにイベントを開催したりといった活動も行っている。
「工事って実際にはうるさいし汚いしで嫌厭されるじゃないですか。でも、建設の仕事って地域のかたにご理解いただかないと進めづらい部分もあるんです。そのためにこの現場では工夫を凝らしています。工事への抵抗がある状態から、さまざまな取り組みを通して住民と接していくことで徐々に理解が深まっていることを実感しています。こういう関係性の変化にやりがいを感じていますね。」と笑顔で話す総括所長の植田さん。
私たちが日々暮らす町、当たり前に利用したり過ごしているその空間には、見えない人々への思いが込められている。しかし、それらの存在を日頃から意識的に捉え、支えられているという感覚を持つことはほとんどないだろう。頭ごなしにわからないからといって遠ざけるのではなく、知ろうという気持ちを持つこと。それだけで、私たちの平凡な毎日から新しい風景が見えてくるだろう。